名古屋市瑞穂区に、古き良き昭和の時代の雰囲気を残す雁道(がんみち)という地域があります。
その雁道界隈で、戦前からお店を続けておられる駄菓子屋「安藤商店」さん。
たばこと駄菓子だけを置く小さなお店には、はたしてどんな歴史が詰まっているのか。
お話を伺ってきました。
街とともに変化してきた駄菓子屋80年の歴史
お店を覗いてみると、決して広くはないスペースに、駄菓子が所狭しと並びます。
奥にはたばこもずらり。
「ごめんください」と声をかけてみると、奥から出てきてくれたのは、優しそうな笑顔のおばあちゃん。
エプロンのポケットに小銭を入れていて、歩くたびに聞こえる、ジャラジャラという音が何とも印象的です。
御歳78歳ということですが、背筋もピンとしていてとてもお元気で、おばあちゃんというよりお母さんというイメージ。
ということで、この記事では「お母さん」と呼ばせていただきます!
創業は80年ほどになるという、歴史ある安藤商店。
昔は、石鹸や洗剤などの日用品、文具、パンなど、今でいうコンビニのような役割を担う大きなお店でした。
お好み焼きなどの鉄板もあり、夏はアイスや氷、冬はおでんも出していたそう。
近所には今でも町工場が点在しており、常連さんが今もたばこを買いに来るそうですが、昔はもっともっと賑わっていたそうです。
「忙しくて大変だったけど、今思えばそれも幸せだったよねぇ。寂しくなったもんだわ。」
とお母さん。
ここから、激動の時代を生き抜いてきた安藤商店の物語をたくさん語ってくださいました。
元々は近くに別の店舗を構えていたそうですが、戦争当時に空襲で焼けてしまい、お店を移して現在に至ります。
地域の子どもたちが集まるのはもちろんのこと、30年ほど前までは町工場やガソリンスタンドの寮もあったので、働き盛りの大人たちもたくさんお店に通ってきていました。
遅くまで働いた若者たちは、何でもそろう安藤商店に自然と集まります。
彼らに夜食を食べさせるためにお店の外に縁台を出して、夏は夜中までお店を開けていたのだとか。
「分厚い鉄板で焼くと、美味しさが全然違うんだよね」とお母さんもおっしゃる、安藤商店の鉄板焼き…
お店の縮小に伴って鉄板も手放してしまったそうですが、是非とも1度食べてみたかった…
また、かき氷を出していたころには、先代にあたる義理のお母様がこだわって、ザラメを煮込むところから手づくりしていたシロップが自慢だったそう。
あ~こちらも食べてみたかったなぁ…
さらに氷についてもお母さんが物申す!
「最近になって、フワフワ食感のかき氷が流行ってるっていうでしょ?あれ、昔からあったんだからね!私たちの頃の氷は、削り方を調節して、ふわふわに作っていたのよ。」
「え!?そうだったんですか!」と驚く私。
粒が細かいと暑さですぐに溶けてしまうから、持ち帰り用に粗めに削るようにしたことで、徐々にジャリジャリ食感のかき氷も出回るようになったのだとか。
かき氷の形態も、時代に合わせて移り変わっていたんですね!
駄菓子と現代っ子たち
さて、まだまだたくさんのお話を伺ったのですが、そろそろ「今」の安藤商店の話に移りましょう。
相次ぐ増税で苦労されながらも、10円駄菓子だけはお値段据え置きで頑張ってるとのこと。
「あ、これ息子が好きなやつです」と手にとったこの駄菓子。
…!?あれ?ガブリチュウじゃなくて、カジリッチョ?
お母さん「そうそうそれね、あっちのは大手メーカーが作ってて、同じ値段でもちょっと小さいの。
味はそう変わらんからね、子どもたちはみんなすぐ気づいてこっち買ってくよ。」
なるほど!
子どもって、駄菓子のこととなると、やたらと本気になるし、
普段じゃ見られないような集中力を発揮したりするんですよね(笑)
カジリッチョは、ガブリチュウよりお得です。覚えておこう。
少し離れたところには学校もありますが、以前近所にたくさんいた子どもは今では本当に少なくなってしまったそうです。
しかし、学校の町探検などでお店に来てくれる機会があったり、
それをきっかけにお友達を連れて再び顔を出してくれたりということもあり、現代の子どもたちとの触れ合いもお店を続けていく1つの目的となっています。
スーパーやコンビニしか知らない現代っ子は、「駄菓子屋さん」がどういうものか知りません。
レジを探し回る子もいれば、一つひとつの値段を覚えていて暗算でお会計するお母さんに目を丸くする子もいるそうです!
「昔は学校の算数よりも駄菓子屋さんで計算を覚えたものだけど、今はケータイ取り出して電卓機能を使っちゃうから、そういう姿を見ると、ちょっと悲しいんだよね。」
と、少し寂しそうな表情で語るお母さん。
そんな子には、まず値段を考えずに欲しいものをカゴに入れさせて、そこから予算に合わせてどれを残すか、どれを諦めるのか、一緒に選ぶお手伝いをしながら教えてあげるのだとか。
そんなやり取りの後で、「ずっと続けてね」「また来るよ」と元気に帰っていく姿を見ると、まだまだ頑張ろうと思える。
街の姿は変わっても、安藤商店は決して変わらず、地域の人々を見守り続けます。
これからも、近所の憩いの場として
昔と比べてすっかり暇になってしまったというお母さんですが、取材中、ご近所さんが近くの移動販売で買ってきたという果物を届けにいらっしゃいました。
何か会話をされるわけでもなく、
「今日はこれだけ。じゃあね~!」
「ありがとね~」
たったこれだけのやり取りでしたが、
「こういう近所づきあいも、いいもんでしょ。」
とお母さんは嬉しそうでした。
「喫茶店行けばそれなりにお金だってかかるしさ、ちょっと休憩しに寄ってくれるだけでも、お店を開ける楽しみなんだよね。」と。
今でも近所から人が集まるのは、お母さんの人柄あってこそです!
一度ご挨拶してお店を後にしてすぐ、ハッと大変なことに気付いた私。
お話に夢中で駄菓子のお金払ってない!!!
慌ててお店に戻りました!
お母さんごめんなさい!私「お母さんごめんなさい!」
お母さん「どうしたの?」
私、お金払ってないですよね!?
お母さん「あぁーそんなのいいのよー!」
いやいやそれはダメですダメです!
お母さん「いいのよ、それくらい」
いえいえ!ダメです!もう1回計算お願いします!!
というわけで、再び商品を出してお会計していただきました。
ふぅ、これで安心。
貴重なお話を聞かせていただいた上に、危うく取材泥棒になってしまうところでした。
今回もまた、素敵な出会いに感謝です。
基本情報 【安藤商店】 *住所:愛知県名古屋市瑞穂区船原町1-8 *電話番号:052-881-8744 *営業時間:不定 |
お母さんの人柄がみんなを惹きつけているのね!
さくら
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