東京都中央区勝どき、ベイエリアの象徴ともいえるタワーマンションが林立し、現在も再開発中が進む都会の真ん中、駅前で好立地。
そこにふと足を止めてしまいたくなる懐かしい佇まいのお店がありました。
その名も「月島パン店」
勝どきは現代と色濃く残る歴史とが混在する街でもあり、戦前から始めた店がどのように移り変わり、歴史と共に歩んできたかをこの店を通して探訪するべく伺いました。
取材の日は目の前の月島公園にて、恒例のマルシェ開催日という事もあり人出も多く、マルシェ目当ての親と公園目当ての子が、そのまま駄菓子屋さんに直行というお約束のお客さんでいっぱいです。
駄菓子屋さんを取材をすることになり、記念すべき1軒目はここと決めていた「月島パン店」。
ここは私の息子が小さかった頃に友達と公園で遊んだ帰り道、皆で寄った思い出の駄菓子屋さんでもあります。
通ったからこそ知っているここの魅力と改めて知れた歴史、そんな思い出の月島パン店を皆さまに紹介したいと思います。
突然いただきました。こんな貴重なもの良いのでしょうか?
取材協力をお願いできないかと伺った日は隣の月島公園でマルシェ開催日ということもあり、小さなお客さんから大人まで途切れることなく店が賑わっていた時間。
まさかその場で取材OKをもらえるなんて思ってもいなかったのですが、突然の訪問にも快く対応してくださり、まさに神対応。
「あら、写真?いいわよ。でも顔だけは・・・ちょっと」と店主。
もちろんですとも、乙女なるもの恥じらいという名の女子力は何歳になっても健在です。(乙女心と恥じらいをどこかに置き忘れてきた我を反省し、勝手に一句)
「置き去りの 恥じらう心 思い出す」
店内の写真を撮らせていただいていたら、一緒に来ていた息子に
「これあげる」
と渡してくれた一冊のノートには『警視庁・捜査一課長』と書かれている。
「この前ね、ここで撮影をしたのよ。だからほら、これ記念にもらったのだけどあげるわよ」
と店主。
こんな貴重なものを良いのでしょうか、とたじろぐ私たちに「記念にどうぞ」と息子に渡してくれました。
これはもったいなくて使えません。
初めての取材に優しく寄り添ってくれた店主の気持ちとして、思い出の家宝にします。
駄菓子屋・「月島パン店」の名前の由来
店内のいたるところを見渡しても駄菓子、アイス、ガチャガチャと、パンはどこにも見当たらない「月島パン店」。
なぜ店の名前にパンがつくのか気になりますよね。
名前の由来を聞いてみたところ、歴史は戦前にさかのぼります。
戦前、恐らく80-90年前頃
もともとは先代が戦前から食堂として始めたお店が今の駄菓子屋へと繋がっていきます。
その頃の勝どきは今とは趣が違う街の顔で、造船所や町工場が多くあり、小さな家があるだけの街。
そのため職人さんにご飯を提供する同じような食堂が近くにはたくさんありました。
戦後になり代は現店主の旦那様の時代に
戦後になり代は現店主の旦那様の時代に。
昭和20年以降の混乱期にはお米が自由に入手できなかったことから食堂を辞めて「パン屋」さんに。
先見の明があったのでしょう、たいそう繁盛したそうです。
その頃から近隣にパン屋さんが多く出店するようになり、パンを作って売ることから駄菓子を仕入れて販売をすることに転じましたが、屋号は昔のままに。
こうして月島パン店が駄菓子を販売するようになって40〜50年、食堂屋からの創業とすると50〜60年、
今もなお奥様の店主がお店を守ります。
お米の歴史
ここで少しお米の歴史をたどると、入手困難になった背景が見えてきます。
昭和17年から日本では米穀配給通帳が発行されています。
第二次世界大戦の最中と終戦後しばらくは、外食でお米を注文するときはお米の現物を持参するか、旅行者用穀類購入通帳を提出しなければならなかったとあり、この他にも全部で7種類の穀類購入通帳が存在しています。
この時代に食堂屋を経営するのがいかに大変だったか。
歴史を知り、簡単ではなかったことが伺えます。
今回一番気になった駄菓子
さて話は戻り、今回の取材で“ベストオブ気になる駄菓子”1位に勝手に任命。
その名も「なが〜い さける グミ」
食べても食べても長かった(商品名に嘘はなし)
グレープ好きにはたまらない、1日中食べ続けたい方に特におすすめ。
気になる方は駄菓子屋さんへレッツゴー。
台風で看板が落ちました
台風15号でずっと大事にしてきた看板が落ちたそう。
しかし店主は看板が落ちたことなど気にもしていないご様子。
「そんなことより、落ちたのが台風が来ている夜中で良かったわ。昼間なら子供たちがいるから、考えただけで怖いわよ。屋根に穴も開いちゃったけど、いいのよ誰もけがをしなかったのだから。」
こんな言葉を自然と話す優しい店主に小さなファンはこれからも増え続けることでしょう。
駄菓子屋さんを悩ます消費税
「消費税はね、やっぱり子供からはもらえない。数円足りないで買えないんじゃ可哀想になるじゃない。毎年その時期になると悩むのに、今度は10%となると本当にどうしたらいいものか」
切実な声です。毎年頭を悩ませてきた消費税を取らず、小さなお客さんへの愛情を天秤にかけて切り盛りしていたとは。
一お客として通っていた私は胸が熱くなりました。
ここで店主の想いも込めて再び、勝手に一句
消費税 汗と涙が 詰まってる
この2%増税問題。
駄菓子については軽減税率対象のため、消費税率は原則8%で駄菓子の「おまけ」の中身次第では食品ではなく玩具とみなされ、10%が適用されるとされています。
単に税率が上がるだけの数字の問題ではなく、一人ひとりの想いがあることを垣間見れた話でもありました。
「好きなところに貼っていいわよ、目立つところにする?」というお言葉に甘えて
ドドーンとレジの目の前に貼らせていただきました。
都会の中にはこうしたオアシスがあります。
忙しい子供たちの憩いの場として、大人も童心に返り楽しいひと時が過ごせる場として、これからも皆さまに愛されるお店でありますように。
記念すべき聖地巡礼第一弾「月島パン店」が皆さまにとってのオアシスとなりますように。
基本情報 *定休日:年中無休(雨の日はお休みになることが多い) |
大変な時期を乗り越えて今があるのね。
これからもずっとみんなにとってのオアシスであってほしいわ。
ゆきこ ロッシ
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