「懐かしい」の定義とその感情がもたらす効果

レトロコラム

「懐かしい!」という感情・気持ちについて、あなたは考えたことがありますか?

学生時代によく聞いていた曲が、カフェのBGMとして流れてきた。

前職時代の同期とたまたま偶然はち合わせした。

昔ハマっていたおもちゃやゲームの特集をテレビでやっているのを見つけた、などなど……。

私たちは、ふとした瞬間に「懐かしさ」という感情に、心を奪われるときがあります

この懐かしさの正体とは、いったいどのようなものなのでしょうか?
懐かしいという感情が、私たちにもたらしてくれるものとは?

改めて、「懐かしさ」の感情について考察していきます

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人はどのような時に”懐かしい”と感じるか

昔のゲーム

そもそも、人はどのような時に「懐かしい」と感じるのでしょうか?

実は、何によって懐かしさが発生するのか、京都大学で調査・研究された結果があります。

楠見孝 教授をはじめ、複数人の教授・研究者たちによってまとめられた研究結果には、以下のような記述が。

参考:日本心理学会英文学術誌「Japanese Psychological Research」(Wiley-Blackwell社発行)

なつかしさは、何によって引き起こされるのか

・年齢によってどのように変化するのか
・なつかしさを引き起こすノスタルジア広告(レトロ・マーケ ティング)の効果はどのようにして起こるのか

(1)なつかしさを引き起こすことがらは、過去の繰り返しの経験(反復接触)と長い空白時間
(例: 昔のヒット曲、学校の場面)が重要であること
(2)なつかしさが引き起こされたり、昔をなつかしむ傾向は、男女とも加齢による上昇が見られ、男性の方がやや高いと分析されています。

この記述によると、懐かしさというものは、「過去の繰り返しの経験(反復接触)」「長い空白時間」がきっかけで発生するもの、と定義づけられているようです。

懐かしさを感じるきっかけは「反復接触」と「長い空白時間」

過去の繰り返しの経験「反復接触」からいうと、小学生の頃に何度も往復した通学路の風景などが挙げられるかもしれませんね。

当時は何気なく通っていた道ですが、学校を卒業し、長い年月を経て、大人になってから改めて同じ道を辿ってみると、昔のことがまざまざと思い出されて「懐かしい」と自然に感じることでしょう。

長い空白時間を置くことによって、対象の事柄としばらく触れない期間があらわれることになりますから、その分ノスタルジーが増すのも頷けます。

上記、京都大学の教授らによる調査は、主に以下のような過程を辿ったものでした。

調査1では、大学生451人を対象にアンケートを行い、なつかしさを感じる光景、歌、出来事、CMについて思い出すことを自由に書いてもらいました。
その文章をテキストマイニングという方法でキイワードが同時の現れる頻度を分析した結果、なつかしさは、過去に頻繁に経験したこと(小中学校の通学路・行事・友だち、アニメなど)とその経験からの長い空白期間(母校訪問、旧友との再会など)によって引き起こされることを明らかにしました。

小さな頃に流行った歌やCMなども、懐かしさを感じる引き金になることがわかりますね。

つい先日、筆者も「昔見た・好きだったドラマ」の話で友人たちとおおいに盛り上がりました。

放送されていた時間帯、出ていた俳優、ストーリー、最終回について……。

時代性を象徴するものは、それに触れていた共通項が多ければ多いほど、盛り上がるきっかけになるのかもしれません。

30代以上の男性がより強く感じる「懐かしさ」

調査2では、737人の15才から65才の市民を対象に、なつかしさを引き起こすCMについてアンケートを行いました。
その結果、(a)年を取るにしたがって、昔をなつかしむ傾向が強まり、その傾向は男性が女性よりもやや強いこと、(b)昔何度も聴いた曲を使ったCMや長い間聴いていなかった曲を使ったCMは、なつかしさを8-9割の人に引き起こし、その傾向は、30-50代にかけて上昇することが明らかになりました。

また、懐かしいという感情は、30代以上の男性に特に強く発生するものであることがわかります。

単純な調査結果のみではわからないこともまだまだ多く、そこにはっきりとした性差があるものかどうかも定かではありません。

もしかしたら、男性の方がより強く過去の出来事を覚えているのかもしれません。

”懐かしい”が人々にもたらすもの

窓から見える景色

懐かしさを感じることによって、人にどのような影響があるのでしょうか?

今野義孝氏と上杉喬氏の共同研究「懐かしさの感情体験に及ぼす動作法による快適な心身の体験の効果ー脳波の快適度と感情イメージ尺度による検討ー」では、懐かしさを喚起させ購買へと繋げる広告「ノスタルジア広告」のからくりについて述べられています。

昔をなつかしむ傾向が強い人ほど、テレビCMの音楽や場面(ノスタルジア広告要素)をなつかしいと感じること、それが自分の過去の経験を思い出したり、CMや商品が記憶に残ることを促進し、CMや商品への良いイメージを高めて、その商品を買いたいという気持ち(購買意図)に結びつくことが明らかになりました。

具体例でいうと、2019年3月にソニーネットワークコミュニケーションズと登美丘高校ダンス部がコラボレーションしたCMが話題になりました。

昔に大流行したこの音楽とダンス、まさに「懐かしい!」という気持ちで見た方も多いのではないでしょうか?

懐かしいという感情により、人を購買活動へ繋げることもできてしまう

過去に流行したものと現在のトレンドを掛け合わせた、こういったノスタルジア広告の手法は、今後も各所でみられる定番となっていきそうですね。

懐かしさは、人をリラックスさせるもの

そもそも、懐かしさとは良い感情なのか、それとも悪い感情なのか。

あなたは考えたことがありますか?

日本国語大辞典を紐解くと、懐かしさについて以下のように解説されています。

[懐かしい]①心がひれ、離れたくないさま。愛着を覚えるさま。魅力的だ。慕わしい。
(イ)人の心や姿をはじめ、音・香などを含め、広い対象についていう。
(ロ)衣服が着慣れて程よくのり気がとれて、からだになじんでいるさま。

②(中世以降に生じた意味)過去の思い出に心がひかれて慕わしいさま。離れている人や物に覚える慕情についていう。

[懐かしがる]しきりに懐かしそうにする。懐かしく思う気持ちを言動に表す。
[懐かしさ]心が引かれて慕わしく感じること。また、その気持ちや度合い。

概ね、長い間会っていない人や触れていない事物に対して、愛着や慕情を覚える好ましくも切ない感情、といって差し支えないでしょう。

「懐かしさ」の体験は、身体の内側から広がる暖かさの感覚やリラックスの感覚、ゆったりとしたくつろぎの感覚、トランス状態などのもとで、自然にこみ上げてくるものであり、そのままその感覚に浸っていたくなるような特徴をもっていると考えられる。

懐かしさを感じることにより、人の身体には「暖かさ」「リラックス」「くつろぎの感覚」などがもたらされるといいます。

今を生きることに忙しい現代人。

時には過去を振り返り、懐かしさに浸ってゆっくりリラックスするのも良いかもしれませんね。

”懐かしい”を感じられるモノ・コト

昔の家の様子

どんな物事に人は懐かしさを感じるのか?

それは、生きてきた時代や環境、国によっても大きく違ってくることでしょう。

子供の頃に住んでいた場所、見ていたアニメやテレビ番組、聴いていた音楽など、触れていた文化が違えば懐かしさを感じるポイントも変わってきます。

新しいコミュニケーションツールとしての「駄菓子」

店内に置かれた駄菓子

日本で暮らしていた方なら、共通して懐かしさを感じられる物事のひとつに、「駄菓子」があるのではないでしょうか。

「よっちゃんいか」「どんどん焼き」、はたまた、今も大人気の「うまい棒シリーズ」など。

昨今は、新宿や池袋など、都内を中心に多数の駄菓子バーが開店中。

昔よく食べた駄菓子に触れながら、人それぞれの懐かしさを想起させる場として、新しいコミュニケーションの場として機能しつつあります。

人の心をふわっと懐かしくさせてくれる駄菓子。

あなたもぜひ、次のお休みには駄菓子屋さんへ足を運んでみてはいかがでしょうか?

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北村有

北村有

吉祥寺在住フリーライター。趣味は読書と書店めぐり。ふとした時に旅に出ます。
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