東京都新宿区の西武新宿駅と埼玉県川越市の本川越駅を結ぶ西武新宿線。
西武新宿駅から数えて15番目の駅、西武柳沢駅から徒歩数分の商店街の一角に「ヤギサワベース」さんはあります。
オーナーは中村晋也さんと麻美さんご夫妻。
「店主」の晋也さんはデザイナー、「女将(おかみ)」の麻美さんはジャズ歌手という経歴の持ち主です。
そんなお二人が駄菓子屋を開業したいきさつをお伺いいたしました。
西岸良平氏の『三丁目の夕日』に憧れて
西武柳沢駅のホームから階段を昇り改札を抜けて北口へ。
駅前の商店街を田無方面へテクテク。
3分ほど歩くと「ヤギサワベース」に到着です。
大きなガラス戸がはめ込められた店舗は、太陽の日差しが差し込み流行りのカフェやセレクトショップを思わせます。
昔ながらの駄菓子店とまるで違う趣きが漂っています。
「西岸良平の『三丁目の夕日』に登場する茶川さんが小説を書きながら、駄菓子屋を経営している姿に共感を覚え、いつかは自分も本業であるデザイナーの仕事をしながら、駄菓子屋を開業することを夢見ていました」
という晋也さんが、待望のお店を開業したのは2016年4月。
現在のお店のちょうど向かいにあった7坪ほどの貸店舗スペースを利用したそうです。
駄菓子屋で、商店街の子どもたちの笑い声が戻る
オープンすると、徐々に子どもたちが足を運んでくれるようになり、地元のお年寄りから
「おかげで商店街に子どもたちの声が戻ってきました」
とお礼を言われるようになったとか。
「もともと商店街を活性化したいという気持ちもあったので、その言葉はうれしかったですね」
しかし、晋也さんの本業が忙しくなると、週に1日ぐらいしかお店を開けることができなくなりました。
せっかくオープンした意味がなくなると思い、麻美さんがそれまで勤務していた仕事を辞め、駄菓子屋の「女将」として店頭に立ち、晋也さんは裏方になるという現在のスタイルが確立したそうです。
フリースペースを備えた”ネオ駄菓子屋”に
現在の店舗に移転したのは2019年7月15日。
広さも3倍に広がり、駄菓子を置くだけでなく、子どもたちが自由に使えるフリースペースが設けられています。
売り場の奥にテーブルが2卓あり、普段は子どもたちがゲームを楽しんだり、親御さん同士がおしゃべりをしたりしているそうです。
「今風にいうと『子どもの居場所』、私たちの時代でいうと『たまり場』。そんな感じにしたかったんです」
と晋也さんはフリースペースを設けた理由を語ってくれました。
以前の店舗は土間敷きだったため、乳幼児を連れたお母さんには敬遠されがちでしたが、今はフローリングになり衛生面の課題も解消され客足も伸びたとか。
「子どもの居場所づくり」を研究している早稲田大学の学生さんたちと協力しながら、今後はワークショップなどを実施する計画も進行しているそうです。
「子ども同士、子どもと地域、子どもと親を結びつけるハブのような存在になれたらうれしいですね」
オープンして3年。
子どもたちの間では同店で待ち合わせして、駄菓子を買って、フリースペースで宿題をする子どもたちや、「お父さんのお土産にする」と言って駄菓子を買ってく子どもたちもいるのだとか。
オーナー夫妻も、地域の大人として成長
かつて駄菓子屋は小学校の学区内にあり、小学校によって通う駄菓子屋が違っていたものです。
駄菓子屋には学年が違う子どもたちが集まり、そこでひとつのコミュニティが生まれました。
駄菓子そのものはスーパーやコンビニでも購入できるので、今の子どもたちにとってもさほど珍しいものではありません。
子どもたちにとって、駄菓子屋に集まって、同じ時間を過ごす友だちがいることが楽しいのではないでしょうか。
「仲良しだった子どもたちがケンカしたり、反抗期を迎えたり、子どもたちの成長の過程のほんの一部ですが見守ってきたという想いがあります。だから、地域の大人として子どもたちを注意できる立場になれたように思います。それはこうして駄菓子屋を経営しているおかげです。」
そう語る麻美さんの顔には母親のような温もりを感じました。
悪いことをしたときには、たとえ他人の子どもでも叱る、そんな大人がめっきり少なくなった今、子どもたちを見守り、叱る大人がいる町は子どもたちにとっても幸福な町なのではないでしょうか。
中村さんご夫妻がそんな大人に成長したきっかけが、駄菓子屋を開業したことだと思うと、駄菓子屋ファンのひとりとして、誇らしい気持ちで一杯になりました。
【基本情報】 |
駄菓子屋さんのある町は子供だけでなく、大人にとっても意味のあることね!
一緒に成長を見守っていける存在!
松野孝
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