「ノスタルジー」という言葉を聞いたことがあるだろう。
「懐かしい」「古い」「昔」
なんとなく同じようなイメージを持っていても、詳細を聞くと人によっていろいろ印象が違うかもしれない。
ではノスタルジーとは何なのか、どういう意味なのか、具体的に考えたことはあるだろうか。
普段何気なく使っている言葉でも、その意味をはっきりと意識して使えれば、より効果的に言葉を生かすことができるだろう。
そこで「ノスタルジー」という言葉は、そもそもどういう意味の言葉なのか、どういうときにノスタルジーを感じるのか、ノスタルジーを感じる効用、ノスタルジーをすぐに感じられるおすすめの方法などについて紹介していきたい。
「ノスタルジー」とは「遠い故郷や過去の時代を懐かしむ気持ち」を指す
「ノスタルジー」はフランス語の「nostalgie」に由来する外来語。
英語の「nostalgia」に由来する外来語「ノスタルジア」も同じ意味の言葉だ(記事内ではノスタルジーに統一して解説)。
ほかにも「郷愁」「望郷」なども同じような意味で使われる。
国語辞典『大辞林』第三版(三省堂)では、以下のとおり定義されていた。
異国にいて、離れた故郷を懐かしむ気持ち。郷愁。望郷心
『大辞林』第三版(三省堂)
また『日本国語大辞典』(小学館)では、以下のようにある。
遠く離れた異郷にいて、故郷を懐かしく思う気持。また、幼年時代など、遠い過去の時を懐かしんであこがれる気持。郷愁
『日本国語大辞典』(小学館)
もともとノスタルジーは、異国など故郷から遠く離れているときに、故郷を懐かしいと思う気持ちを指していた言葉だった。
やがて意味が広くなり、幼年時代などの遠い過去を懐かしく思う気持ちも指すようになったのである。
日本では、明治時代後半には文学作品などでノスタルジーという言葉が使われていたようだ。
さらに『日本国語大辞典』によれば、永井荷風(ながい かふう)が明治42年(1909年)に発表した作品『ふらんす物語』に「ノスタルヂヤ」として使用されているのが確認されている。
亜米利加の急しない趣味に乏しい生活に対して、却って限り知られぬノスタルヂヤを感ずるのである
永井荷風『ふらんす物語』
また、森鴎外(もり おうがい)が明治34年(1901年)にデンマークの作家であるハンス・クリスチャン・アンデルセンの作品『即興詩人』を訳したものに、ノスタルジーを「ノスタルジア」として使用していた。
このように、ノスタルジーは明治時代からおもに文学の分野で使われていたのだ。
さきほどのとおり、ノスタルジーは遠い故郷を懐かしむ気持ちであった。
それが、遠い過去を懐かしむ気持ちにもノスタルジーを使うようになったもの。
現代では交通機関が発達して、時間やお金はかかっても簡単に故郷へ帰ることができる。
また、インターネットなどの通信手段の発達で、故郷の情報を手にしたり、電話やEメールなどで故郷の人と連絡したりできるだろう。
しかし、かつては故郷から遠く離れた場所にいた場合、簡単にに故郷に帰ることはできなかった。
場合によっては、二度と故郷に帰ることはできないことも。
それと同じように、幼少時代など遠い過去には戻れない。
二度と戻れない過去の時代と、遠く離れた故郷を懐かしむ気持ちに共通点があるため、ノスタルジーはしだいに過去を懐かしむ気持ちも表現する言葉になったのではないかと思う。
もともとは医学用語
そんなノスタルジーは、元は医学用語だった。
英語のノスタルジアは、スイスの医師が「nostos」(帰郷)と「alogos」(痛み)という2つのギリシャ語を組み合わせた造語。
ホームシックのような精神的な病気を指していたものだった。
「ノスタルジー」と「レトロ」はどう違う?
ノスタルジーとよく似た意味で「レトロ」という言葉を聞いたことがあるだろう。
ノスタルジーとレトロは同じ意味なのだろうか?それとも違いがあるのだろうか?
『大辞林』第三版(三省堂)でのレトロの定義は、以下のとおりだ。
復古調であること。また、そのさま。 「 -感覚」「 -なインテリア」
『大辞林』第三版(三省堂)
レトロは、物や事柄の見た目・スタイルが、古かったり昔風だったりすること。
いっぽうノスタルジーは、自分の気持ちを懐かしい思いにさせるもののことをいう。
レトロは見た目のことなので、レトロだといわれるものを見たとき、その人がどう感じようが関係なく、古い見た目・昔風の見た目をしていればレトロである。
いっぽうノスタルジーは、自分の気持ちが懐かしいかどうかがポイントになるので、同じものでも人によってノスタルジーを感じる場合と感じない場合がある。
レトロは客観的な懐かしさ、ノスタルジーは主観的な懐かしさともいえるだろう。
別の言い方をすれば、レトロは時代軸・時代基準、ノスタルジーは自分軸・自分基準といえる。
また、レトロはモノを表す言葉、ノスタルジーは気持ちを表す言葉ともいえるかもしれない。
ノスタルジーな気持ちを人が抱く瞬間
人はどのようなときに、ノスタルジーを感じるのだろうか。
「2011年度 日本認知科学会 第28回大会」(PDF)では『ノスタルジア感はどのように生じるのか:反応時間を指標として』という発表があった。
それによれば、ポジティブな状態・ネガティブな状態のどちらでノスタルジーを感じやすいかについては、どちらかといえばネガティブな状態のときにノスタルジーを感じやすいとのことである。
ただし、どのようなメカニズムなのかは、まだ明らかにはなっていない。
また、堀内圭子の論文『消費者のノスタルジア―研究の動向と今後の課題―』(PDF)では、消費者行動研究の側面から、ノスタルジーを感じさせるものの例として、以下のようなものを挙げている。
- パン・クッキーなどを焼く匂い
- バーベキューや肉料理の匂い
- 新鮮な空気
- 家族(祖母など)
- 昔の友人
- アンティーク
- 服
- 宝石
- おもちゃ
- 本
- 車
- 誕生日などの行事
- 黒板に書かれた長い数式の写真
なお、これらの例は、おもにアメリカの学生を対象にした調査に基づいたもの。
ノスタルジーを感じるものは世代や出身地、趣味嗜好・生活環境でも変わり、詳細はまだ明らかになっていない面もあるようだ。
奥が深い・・・
たとえば、私の場合だと以下のようなものを見たり聞いたりすると、ノスタルジーな感情になる。
- 昔の実家の写真
- 子供のころによく聞いていた音楽
- 子供のころによく見かけていた車
- 今も残る昔の看板
- 昔よく見かけた漫画・アニメ
あなたは、どんなときにノスタルジーを感じるだろうか。
ノスタルジーな気持ちが人々に与える効用
『Journal of Personality and Social Psychology』誌では、ノスタルジーはネガティブな感情に効果があるという研究結果が書かれた論文が紹介されている。
かつては、ノスタルジーは後ろ向きの感情であまり良い印象ではなかった。
しかし、近年の研究結果などから、ノスタルジーは人間にとって有益なのではないかとわかってきたのだ。
たとえば、ノスタルジーには以下のような効用があるという説がある。
- 自己評価を高める
- 人生や将来を前向きに捉えられる
- 孤独に耐えることができる
また、ノスタルジーを感じることをビジネスに応用する「ノスタルジー・マーケティング」なども研究されている。
今すぐにノスタルジーな気持ちを感じられるアクティビティ
ここまで、ノスタルジーとはどんなものかについて紹介してきた。
もしかしたら「すぐにでもノスタルジーな気持ちを感じたい」と思ったかもしれない。
そんなとき、すぐにノスタルジーが感じられるおすすめの行動・アクティビティを紹介しよう。
- ノスタルジーな気分になれる映画・小説・音楽などの作品にふれる
- 昔のアルバムや写真を見る
- 昔ながらの雰囲気が残る街へ行ってみる
- アンティークショップなどに行ってみる
- 駄菓子屋さんに行ってみる
順に詳しく解説していこう。
ノスタルジーな気分になれる映画・小説・音楽などの作品にふれる
映画・小説・音楽などの作品にふれることで、ノスタルジーな気分を感じることができる。
自分が昔よく見たり聞いていたものを、もう一度見たり聞いたりするのもいいだろう。
そのほかに、ノスタルジーをテーマにした作品もある。
たとえば、以下のような作品だ。
- 映画『ALWAYS 三丁目の夕日』
- 恩田陸の小説
- GOING UNDRGROUNDの音楽
映画『ALWAYS 三丁目の夕日』は、昭和30年代を舞台にした映画で、大ヒット。
全体的にノスタルジーを感じさせる世界観で、その当時を生きていた人はもちろん、私のように昭和40年代以降に生まれて当時を知らない世代にもノスタルジーな気分を感じさせる作品だ。
恩田陸は「ノスタルジーの魔術師」の異名を持つ小説家。
恩田が書く作品はさまざまなジャンルにわたるが、どの作品でも繊細な風景描写や心理描写で、読者の郷愁をさそうのが特徴だ。
GOING UNDRGROUND(ゴーイング・アンダーグラウンド)は、日本のロックバンド。
叙情的なメロディラインと歌声、郷愁を誘う詩世界は、聞くものにノスタルジーな気分にさせてくれる。
昔のアルバムや写真を見る
昔、自分が撮った写真や、親などに撮ってもらった自分の姿が写った写真、そしてそれらがまとめられたアルバムを見ると、懐かしい気持ちになるだろう。
ほかにも、自分だけでなく、家族や昔の同級生が写る写真でもノスタルジーを感じる。
私も亡くなった家族や友人知人が写っていたとき、その当時のことが昨日のことのように思い出したりした経験がある。
昔ながらの雰囲気が残る街へ行ってみる
昔ながらの雰囲気が残る街へ行ってみることでも、ノスタルジーを感じられる。
ノスタルジーを感じる街とは、京都や奈良、鎌倉のような単に歴史的な町並や建造物が残るのとは違う。
昭和中期の雰囲気、当時の生活が感じられるような町並が残る街が、ノスタルジーを感じる街である。
たとえば、以下のような街が有名だ。
- 谷根千(東京都)
- いつか来た道(広島県)
- 豊後高田市(大分県)
谷根千(やねせん)は、東京都の台東区から文京区にまたがるエリア。
谷中(やなか・台東区)・根津(ねづ・文京区)・千駄木(せんだぎ・文京区)の3地区の総称だ。
下町情緒あふれる昔ながらのたたずまいの建物が多く残り、東京のノスタルジーな町並スポットとして、カメラを片手に散策する人が増えている。
「いつか来た道」は広島県東部の福山市にあるテーマパーク「みろくの里」の中にある。
昭和30年代の町並をテーマに、当時の雰囲気を再現したもの。
実は、私は一度訪れたことがあるのだが、まるで昭和の時代にタイムスリップしたのかと錯覚してしまう。
豊後高田市は、大分県の国東半島にある街。
市の中心部にある商店街周辺は、現在でも昔の面影を残す町並が残っている。
一時は街の衰退が深刻化していたが、それを逆手にとって昔の町並を生かした「昭和の町」として地域おこしをし、人気の観光スポットになった。
アンティークショップなどに行ってみる
アンティークショップは、名前のとおり古い商品を扱っている店。
アンティークショップにフラッと立ち寄ってみて、いろいろ商品を見てみるのはいかがだろう。
実際に買わなくても、手に取って見るだけでノスタルジーを感じさせてくれるだろう。
アンティークショップは行きづらいという場合は、古物商や中古ショップでも、懐かしい商品を扱っていることもある。
たとえば、昔のテレビゲームソフトや音楽、アニメ、漫画などでもノスタルジーを感じられる。
駄菓子屋さんに行ってみる
子供のころ、駄菓子を買うのが楽しみだったということはないだろうか。
私は、毎週土曜日に学校から帰って友達を駄菓子を買いに行くのが楽しみのひとつだった。
大人になって駄菓子屋に行ってみると、とても懐かしい気持ちになる。
これこそ、ノスタルジーだ。
昔よく食べていた駄菓子が、実は今も販売されていることも多い。
そんな駄菓子を探し、買って食べてみてはいかがだろう。
当メディア『全国駄菓子屋巡り』では、全国のいろいろな駄菓子屋や駄菓子の商品を紹介している。
ぜひ参考してみて欲しい。
まとめ
昔は故郷に二度と戻れなかったかもしれない時代だった。
だからこそ、故郷に懐かしい思いをはせ、ノスタルジーを感じていたのだった。
それが現代では簡単に故郷に戻れたり、情報を得たりするようになり、故郷を懐かしいと思うことは少なくなった。
その代わり、絶対に戻れない過去の時代を思い出すことで、昔の人が故郷にノスタルジーを感じたのと同じ感情を、現代人が持つようになったのではないか。
ノスタルジーは、人生に前向きな効用があるとわかってきた。
ぜひ、自分なりの方法でノスタルジーを感じてみてはいかがだろう。
アサノ
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